不妊予防という観点から・・・

【不妊症の原因】
不妊症の原因は多岐にわたりますが、先天的な原因よりも、生活習慣、生活環境に起因する
後天的な原因が圧倒的に多く、全体の80%以上を占めることが知られています。

喫煙、飲酒習慣や過度なダイエットによるやせ、肥満、糖尿病などの生活習慣病や、性行為による感染症、
加齢などこれらすべてが不妊の原因になります。また、ストレスや飲酒も不妊との関与が指摘されています。

【不妊を予防する】
不妊治療の技術は革新的に発展しましたが、それでも妊娠率は、
タイミング療法で10%、人工授精10%、体外受精・顕微授精30%が限界です。 
不妊治療病院を受診しても、その半数が妊娠に至らないことになります。

逆に言えば、生活習慣や生活環境をあらためて見直すことで、不妊症を予防できる可能性があります。

米国生殖医学会では、加齢、喫煙、不健康な体重、性感染症の4項目を主な不妊リスクを高める要因として、不妊予防キャンペーンを行っています。
不妊症治療を開始した方も、生活習慣や生活環境を見直すことが、負担の少ない治療で妊娠へ導く大きな一歩です。
今、妊娠したい人も、いずれ子供が欲しい人も、今一度生活習慣、生活環境を見直してみてはいかがでしょうか。

不妊リスクを高める要因

不妊リスクを高める要因とその影響をまとめました。

1:加齢

妊孕能は女性の年齢に関与し、高齢になると妊娠しにくくなるということは、多くの人が知っています。

【35歳までなら簡単に妊娠できる!?】
でも、「35歳までなら簡単に妊娠できる」と思っていませんか。「35歳」という妊娠にまつわるキーワードはよく知られていますが、「35歳以上は高齢出産」という病名からでしょうか。「35歳以上は高齢出産」という意味は、「35歳までなら全く安全に出産出来る」という意味ではありません。妊娠・出産には年齢にかかわらず合併症や生命の危険が伴いますが、35歳以上になると急激にそのリスクが増えるため、「35歳」は「安全生殖限界年齢」といわれるのです。ましてや、35歳までなら簡単に妊娠できるというのは全くの誤解です。

【加齢によるリスク】
さまざまな統計によると、妊孕能(妊娠する能力)は25歳ですでに低下しはじめ、35歳以降急激に低下します。
また、妊娠に至ったとしても、流産率も上昇します。これらは主に、卵子の加齢、子宮機能の加齢
、内分泌機能の加齢によると考えられています。
たとえ、体外受精・顕微授精を行っても、38歳以降は急激に妊娠率が低下することも 報告されています。

現代の医学では、加齢に伴う身体機能の低下を止めることも、改善することも出来ません。
なるべく早く妊娠を考えることが、一番の不妊予防と言えるでしょう。

2:喫煙

<男性の妊孕能に及ぼす影響>

喫煙が男性の生殖能力に影響があるという指摘がされています。
総精子数の低下、運動性の低下、精子奇形率の上昇、卵子との結合力の低下、勃起不全(ED)の発症リスクの上昇と、あらゆる生殖機能に悪影響を及ぼします。

<女性の妊孕能に及ぼす影響>

喫煙は卵巣に有害であり、喫煙者の血中FSH濃度は非喫煙者に比べて高いことが指摘されています。
卵巣機能を低下させ、卵巣の老化を促進させ閉経が早いこともわかっています。
また、卵管采でのピックアップや排卵の機能も低下します。喫煙により妊娠率、出産率が2~3倍も低下することから、喫煙は女性の生殖年齢を10歳も老けさせると報告されています。
あなたが35歳なら、もう卵巣は45歳です。

<不妊治療に及ぼす影響>

喫煙は、卵巣刺激のためにより多くの刺激ホルモンを必要とし、着床率を下げ、体外受精・顕微授精の成功率を半分に低下させると言われています。

「喫煙は、卵巣刺激による反応をおよそ2/3に低下させ、体外受精での妊娠率を29.6%から10.0%へおよそ1/3に低下させ、卵巣の予備能力も低下させる。」
Freour Tら,「Active smoking compromises IVF outcome and affects ovarian reserve.」 Reproductive Biomedical Online. 2008 Jan; 16(1):96-102

「喫煙はFSHの値を上昇させる」
Kinney Aら, 「Smoking, alchol and acaffeine in relation to ovarian age during the reproductive years.」Hum Reprod. 2007 Apr; 22(4): 1176-85

これらの影響は、受動喫煙でも同様であることもわかっています。不妊治療に邁進する前に、禁煙しましょう。

3:不健康な体重(やせと肥満)

日本では現在のところ、BMI18.5未満をやせ、BMI25以上を肥満としています。

月経異常のある患者の3~4割がやせによるもの、4割強が肥満によるものであるとの報告があり、合わせれば、月経異常の8割前後が不健康な体重によるものということになります。それほど、女性の体重は月経、ひいては生殖機能に関与しているのです。

<やせ>
やせによる月経異常の発症機構ははっきりとはわかっていません。
視床下部からのホルモンに異常がみられることから、視床下部が障害され、下垂体からのホルモン分泌が低下し、卵巣機能に異常を来すと考えられています。

やせの期間が短ければ短いほど、体重の回復が早ければ早いほど、卵巣機能の回復も早いようです。

<肥満> 肥満では、多嚢胞卵巣症候群様の内分泌パターンを示します。つまり、高インスリン血症からアンドロゲン産生が亢進し、LH上昇とFSH低下をきたし、卵胞発育、排卵不全となると推定されています。理想体重(BMI22)を目標に運動・食事療法を行います。理想体重に到達しなくても、減量することで月経異常は高率に改善されるようです。

男性においても、糖尿病や高血圧、高脂血症などの生活習慣病は勃起不全(ED)を増加させることがよく知られています。内臓脂肪の減少だけでもED状態の改善が得られる場合が多くあります。

4:性行為感染症

近年若年層に性行為感染症(STD)が急速に増加しています。
STDのなかで不妊と関係が深いのは、クラミジアと淋菌です。これらは上行感染といって、子宮頸管炎から子宮、卵管炎、骨盤腹膜炎や肝周囲炎へと続く感染を引き起こします。炎症そのものや、炎症による内腔の狭窄や癒着、卵管周囲の癒着により妊娠を妨げます。

【男性の場合】
男性では、尿道炎や精巣炎をひきおこし、生殖能に悪影響を与えます。 いずれも、第1に予防、第2に早期発見、早期治療が重要です。

5:ストレス

現在のところ、ストレスが明確に生殖能に関与しているという報告はありません。ですが、実際には社会環境や対人関係などのさまざまなストレスが現代社会には存在し、不妊を増悪すると思われます。

ストレス刺激は視床下部のホルモン分泌を変調し、排卵の抑制や卵管の攣縮、男性では造精機能が低下することが報告されています。また、ストレス刺激は自律神経の失調を誘発し血液循環不全を起こすことから、血行不良による子宮卵巣の機能低下を併発させることも容易に想像できます。

【ワークライフバランス】
労働環境によって妊娠に踏み切れず、加齢が基で不妊になってしまうような生活も、ストレスといえなくもありません。少子化対策が強化されつつある現在、企業による働き方の見直しなどの取り組みが拡大していますが、社会や企業が個々人の人生の計画をたてることは不可能であり、不十分であることは明白です。男女ともに、「自身の生活環境やワークライフ・バランス」と「子供をもつこと」を躊躇せずに天秤にかけることも必要かもしれません。もちろん、どちらかしか選択出来ないという意味ではなく、その中でお互いに譲歩出来るところはないかを見つめなおしてはいかがでしょうか。

6:飲酒

アルコールは、適度な量であれば個人の生活の質を高め満足感をもたらすものです。
しかし、多量の飲酒や飲酒習慣が続くと心身に大きな影響を及ぼします。
アルコールは中枢神経を抑制し、脳機能、呼吸、循環を低下させ、脳と末梢神経系間のメッセージ伝達のための受容体を変化させます。血中アルコール濃度が上昇すれば、脳から脊髄への情報の流れは減少し、鎮静化をもたらします。このアルコールの中枢神経抑制作用が、勃起不全、膣分泌物減少、性的反応低下、その他の性機能不全に影響すると言われています。

<男性の妊孕能に及ぼす影響>

大量のアルコールの急性的飲用により、勃起障害、射精障害、性的興奮の減少があると報告されています。慢性的飲用では、テストステロン値の低下、精子数の減少、精巣の萎縮にも及びます。

<女性の妊孕能に及ぼす影響>

女性の性的興奮は、血中アルコール濃度の上昇とともに低下することが知られています。慢性的飲用では膣分泌物減少や性交痛をもたらし、卵巣機能不全にも関与していると言われています。

参考文献文献
「不妊症・不育症」医薬ジャーナル社2009改訂版
「不妊予防のためのマニュアル」日本不妊予防協会編 2008
「生殖医療ガイドライン」日本生殖医学会 2007
「ホルモン療法マニュアル」産科と婦人科 診断と治療 2008
「ARTマニュアル」改訂第二版 森 崇英、久保春海、岡本 均 永井書店 2006
「不妊症・不育症」改訂版 苛原 稔 医療ジャーナル 2009
「不妊・不育外来」柴原 浩章 中外医学社 2009
「EBMに基づく不育症診療の実際」杉 俊隆 金原出版株式会社 2007
「生殖医療のコツと落とし穴」吉村 泰典 中山書店 2004
「ART実践マニュアル」吉田 淳 永井書店 2005
「不妊予防のためのマニュアル」日本不妊予防協会 母子保健事業団 2008
「妊娠しやすいカラダづくり」
「タバコ白書第二版」厚生省 1993