妊娠の不思議

不妊治療をはじめるにあたって、まずメディアやインターネットで口コミ情報を検索し、次に各病院が公表している「妊娠率」を比較検討される方も多いのではないでしょうか。

【妊娠率の落とし穴】
患者、医師、メディアのいずれにとってもわかりやすく共有しやすい指標として「妊娠率」がよく使われるのですが、実はこの「妊娠率」には大きな落とし穴が存在します。

どこが「妊娠」?〜妊娠の3段階〜

妊娠にはいくつかの段階があり、その意味合いが異なります。

1:妊娠の第1段階:hCG検出(着床)

生物学的には「受精卵(精子と卵子が受精したもの)が子宮内膜に接着し胎盤を形成する現象(=着床)」をもって「妊娠」とみなします。

ただ、受精卵はとても小さくしかも子宮の中で起こっている着床は直接目で見て確認することはできません。
そこで、着床しているかどうかの目安として、血中あるいは尿中のヒト絨毛ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin:hCG)というホルモン値を測定します。
このホルモンは、妊娠していない時にはほとんど検出されないので、体内からある一定以上の量が検出されれば「妊娠している(着床している)」と判断できます。

少量のhCGを検出しても子宮内に胎嚢(※1)が見える前に通常の月経と同じように出血し流産に至ることもあれば(化学的流産)、子宮内に胎嚢も見えず出血も起こらず流産していることもあります。
(※1)胎嚢:経膣超音波検査で子宮内にみえる環状の構造物。胎児の発育する空間。

2:妊娠の第2段階:胎嚢確認

着床は、必ずしも子宮内で起こるとは限りません。
正常の子宮内膜以外の部位に受精卵が接着した場合の妊娠を子宮外妊娠といい、正常妊娠とは区別します。子宮外妊娠の場合、生きて元気なお子さんを得ることはきわめて困難です。
これは、体外受精で受精卵を確実に子宮内にお戻ししたとしてもある一定の頻度で発生します。
そこで、子宮内に正常に着床しているかどうかは胎嚢の有無で判断します。
子宮内に胎嚢が確認できれば「子宮内に正常妊娠している(正常に着床している)」と判断できます。

胎嚢は確認できてもその後うまく育たず子宮内で流産してしまう場合もあるので(稽留流産)、慎重な経過観察が必要です。

3:妊娠の第3段階 : 胎芽心拍確認

胎嚢が子宮内に確認できても、必ずしも胎嚢内に胎芽が育つとは限りません。
正常に胎芽が発育しているかどうかは「経膣超音波検査で子宮内に拍動する胎芽心拍が確認できるかどうか」で判断します。胎嚢内に胎芽心拍が確認できれば、順調に発育する可能性が高くなってきた」と判断できます。

妊娠率の定義(算出方法)

どの段階の「妊娠」かによって「妊娠率」は大きく異なります。

こんなに変わる妊娠率

病院の治療方針

「妊娠」および「妊娠率」の定義をそろえただけでは、各病院が公表する「妊娠率」を比較して病院の優劣をつけるのは困難です。
それは、妊娠率を左右するもう一つの大きな要因である「病院の治療方針:ART(生殖補助医療)の適応基準」を考慮していないからです。

4:ART(生殖補助医療)の適応基準

【病院ごとに異なるART(生殖補助医療)の適応基準】 自然妊娠の可能性が少ない場合や、明らかな不妊原因がわからない場合は、「体外受精・胚移植以外の医療行為によって妊娠成立の見込みがないかどうか」の判断は各病院に一任されています。
したがって、患者様の年齢や希望を加味した上で、タイミング療法(自然妊娠)を継続する病院もあれば、すぐに体外受精・胚移植を行う病院もあり、病院の考え方や判断によって治療方針が異なるのが現状です。

「ある治療(たとえば体外受精)」の「妊娠率」が病院間で大きく異なるのは当然の結果と言えるでしょう。

【不明瞭な判断基準】
日本産婦人科学会の会告(「体外受精・胚移植」に関する見解)には、体外受精・胚移植の適応として「これ以外の医療行為によって妊娠成立の見込みがないと判断されるもの」と明記されていますが、肝心の「これ以外の医療行為によって妊娠成立の見込みがないかどうか」の判断基準が明記されていません。

病院の実力

病院が公表する「妊娠率」は「病院の実力」をそのまま反映しているのでしょうか?

まとめ

このように「10人の患者様が不妊治療専門病院を受診して6人が妊娠した」という事実には変わりないのに、「病院の治療方針:ARTの適応基準」が異なることによって体外受精・胚移植の「妊娠率」は大きく異なります。
しかも、A病院を受診し体外受精で妊娠した6人中3人は、B病院では自然妊娠できたかもしれません。

仮に、この治療方針の異なる2つの不妊治療専門病院(A・B)が「病院の実力」といった表現で下記の通りメディアに紹介されたとします:

  A病院:体外受精・胚移植の妊娠率  60%
  B病院:体外受精・胚移植の妊娠率  43%

皆様はどちらの病院をお選びになりますか?